2018年04月19日

表記一題三十日完成

 西にしあまね が「倫理」という訳語を造ったなどと明治以降に生まれた熟語について、中学の国語だったか高校の日本史だったかで出て来たのは記憶にある。実際は『禮記らいき』にある言葉を当てただけで、「造った」わけではないが。「経済」や「共和国」の語も福沢諭吉が造ったとする書き込みを已前見かけたことがあるが、実際は經世濟民の略語で、これは『中説ちゅうせつ』からのよう。共和は『史󠄃記』に出て来る共伯和の時代から。この辺は中𝟑の頃に辞書や本で読んで初めて知ったのはおぼえている。

 「先生」も敬称としては古くから存在している言葉で、師範に代えて使い始めただけ。福沢諭吉が慶應義塾で「先進先生」と呼ばせていたのが発端なのだろう。それまでの、物と引き換えに教えを請うのではなく、金銭で授業料を払って塾から給料をもらうサラリーマン形式にしたのが違う点だと本人がのちに書いている。これによって支払うべき対価が明確になったわけで、現代でも葬儀費用に関してお坊さんに支払う額が曖昧になっている点を明確にしようという動きが出て来たそれと似てはいる。当時は畑で採れた野菜や造った工芸品、家財などが当てられていただけ。今風に言えば、中古屋やネットオークションで物を売り払ってお金に換えて授業料を払うようなもので、現金化する手続きを省略したと考えれば、昔のほうが効率的だったとも言えなくはない。しかも、「おつけ届き」という形で現在でも授業料とは別に先生へ物をおくる習慣は根強く残っているので、負担が増えただけとも言えたりする(笑)

 造ったのか既存の語を当てたのかはともかく、こういった一部の訳語は誰がいつ使い始めたのかが説明されているが、わかりうる全てに関して初出の情報が出ているわけでもない。しかし、たま に外国語の表現をみると、日本語の表現はこれを訳したものなのかな?と感じることがある。

 たとえば“𝐭𝐡𝐞 𝐫𝐞𝐝”と「赤字」、“𝐚 𝐛𝐥𝐮𝐞 𝐩𝐫𝐢𝐧𝐭”と「青写真」といった用語の関係は、恐らく幕末以降に西欧の言葉を日本語に訳したものだろうとは想像がつくが、

𝐧𝐨𝐭 𝐡𝐚𝐯𝐞 𝐨𝐧𝐞❜𝐬 𝐟𝐞𝐞𝐭 𝐨𝐧 𝐭𝐡𝐞 𝐠𝐫𝐨𝐮𝐧𝐝:地に足が着かない
𝐝𝐚𝐲 𝐢𝐧﹐𝐝𝐚𝐲 𝐨𝐮𝐭:明けても暮れても
𝐭𝐫𝐢𝐩 𝐬𝐨𝐦𝐞𝐨𝐧𝐞 𝐮𝐩:人の揚げ足を取る
𝐚 𝐯𝐢𝐜𝐢𝐨𝐮𝐬 𝐜𝐢𝐫𝐜𝐥𝐞:悪循環
𝐁𝐚𝐝 𝐧𝐞𝐰𝐬 𝐭𝐫𝐚𝐯𝐞𝐥𝐬 𝐟𝐚𝐬𝐭․:悪事千里を走る
𝐡𝐚𝐯𝐞 𝐭𝐡𝐞 𝐝𝐞𝐯𝐢𝐥❜𝐬 𝐨𝐰𝐧 𝐥𝐮𝐜𝐤:悪運が強い


というのも訳語なんだろうか?偶然発想が似ていただけということもあるので、よくわからない。英語だと大きな辞書では初出も記録しながら新語も随時更新しているが、日本語ではそういう動きが見当らないので、語源辞典に載っていなければ何かの読み物やテレビ番組などで散発的に紹介されたものを目にするくらいでしかわからないのは残念。近年の流行語はネット時代もあって由来や初出が比較的記録されているかと思っていたが、已前𝐰𝐤𝐭𝐤ワクテカの初出を調べたさい、意外とはっきりしていなかったことに驚いた。掲示板『𝟐ちゃんねる(以下、𝟐𝐜𝐡)』はログが整備されているのでその気になれば初出を調べることは可能なはずだが、𝟐𝐜𝐡由来とされている表現でも初出情報は出ていないか不明瞭に解説されていることが少なくない。語源は当時の事情を知っている人が生きている;おぼえている時代が一番探りやすく、時間が経つほどにわかりにくくなるので、国なり学術団体なりが統一的なデータベースを作っても良いと思う。個人や出版社単位で辞書を作るのはもはや効率的な時代ではないし。已前、国語研究所だったか、漢字の情報を求める告知を出していて、その中に「𣏾(材󠄂)」の字があったものの、別に珍しくもなく近所の複数の石材屋で普通に使われているものだった。知らない人にとっては難解でも知っている人にとっては常識というのは、往々にしてあること。

 その国語研究所にはコーパスという限定された文献から文字情報をデータベース化したものがいくつか公開されているが、散在していたり、電話番号入れて登録するなど手続きが面倒だったり、情報更新の頻繁な現代においてウェブデータの時間的情報が年単位だったり、煩雑な説明だらけだったりと使い勝手が良いものではない。限定せず手に入るあらゆる情報をデータベース化してシンプルなトップページの検索窓に放り込むだけでしかも無料というグーグルと対照的。なのでグーグルに期待した方がいいのかも知れない。

 ちなみに国語研究所のコーパスで「ワクテカ」は𝟐𝟎𝟎𝟓年﹦平成𝟏𝟕年が一番古いが、グーグルでは遅くとも𝟐𝟎𝟎𝟒年﹦平成𝟏𝟔年には事件相談系のスレで使われていたという証言がある。私が日記で最初に使ったのは𝟐𝟎𝟎𝟒年﹦平成𝟏𝟔年𝟎𝟔月𝟏𝟗日。実はネットでひろまった意味合いとは違った使い方をしており、偶然同時期に使い始めたのか何らかの影響があったのかははっきりしない。この話はまだここでは書いていなかったろうか?書いていなければまた今度触れようと思う。
posted by Marimó Castellanouveau-Tabasco at 19:20| 情報処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする