2018年04月05日

散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする

 どちらかがどちらかを盗用したのか、それとも共通の元ネタがあるのか不明だが、文章全体の構成と、後半の字面が極めてよく似ている。

東進ハイスクール 大学入試,センター試験 に確かな実績


1871年の8月9日

明治新政府は約300年続いた封建制度の払拭という目的のため、日本古来の風俗や制度を西洋化する政策を推し進めていました。その一環として1871年のこの日、「士農工商四民の斬髪勝手たるべき事」という太政官布を発布しました。「断髪令」といわれるものですが、文面上は強制ではなく「髪形の自由」となっていました。また、布告の3ヵ月前に、「半髪頭をたゝいてみれば因循姑息の声がする。惣髪頭をたゝいてみれば王政復古の音がする。ザンギリ頭をたゝいてみれば文明開化の音がする」という俗謡が新聞に掲載され、流行しました。これは新政府の木戸孝允が新聞の果たす役割が大きいことに着目し掲載させたもので、文明開化にザンギリ頭が欠くことのできないものであるという観念を国民に植え付けたのです。ザンギリは漢字で書くと「散切り」で、髪を結わないで切って垂らしたままのことを言います。



理容の歴史 歴史篇


(前略)明治新政府は約300年続いた封建制度を払拭し、日本のおくれを取り戻すため、日本古来の風俗や制度を西洋化する政策を推し進め、その一環として明治4年8月9日、次のような太政官布を発布しました。

散髪制服略服脱刀共可為勝手事
但 禮服ノ節ハ帯刀可致事

これが、一般に「断髪令」といわれるものですが、実際には強制ではなく「散髪の許可」となっているところが大変興味深いところです。
また、この断髪令が布告される3ヵ月前に、

半髪頭をたゝいてみれば因循姑息の声がする
惣髪頭をたゝいてみれば王政復古の音がする
ザンギリ(斬切)頭をたゝいてみれば文明開化の音がする

という俗謡が新聞に掲載され、流行しました。
これは新政府の木戸孝允が新聞の果たす役割が大きいことに着目し掲載させたもので、文明開化にザンギリ頭が欠くことのできないものであるという観念を国民に植え付けたのです。(後略)



 一覧した印象では全理連の文章の方が詳しく、東進ハイスクールの文章はその一部を切り取って少し編集したような印象を受けるが、文章を書くのが苦にならない人は元の文章に追加をして増やすことも可能ではある。なにより両者とも同一の素材を利用していたら、抜き方の違い程度にしかならない。参考文献はこの場所には明示されていないが、もしあるとしたら、原典から情報を得て書いたというよりは原典の文章をほとんどそのまま流用した可能性が高い。どちらかは現段階では不明。この手の話をここまで詳しく書いている記事は少ないので。

 発端は、ここ数日記事の標題に使っている

丁髷頭を叩いてみれば、因循姑息の音がする
総髪頭を叩いてみれば、王政復古の音がする
散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする


の原典が何なのかをグーグルで検索してみたことにある。しかし言葉に触れたものは沢山出てきても、発端について具体的に触れたところは少なく、他の記事の参照で広まったような内容が多い。その中で詳しかったのが上記のサイト。木戸孝允が断髪令布告に際して𝟑ヶ月前に新聞に出した俗謡だとする。それでも実際の画像は紹介されていないし、何という新聞なのかも不明で、木戸孝允が考えたのか他の人が考えたものを載せたのかははっきりしない。

 さらに検索すると、

日本史人物 迷言・毒舌集成119_散切頭をたたいてみれば文明開化の音がする


というものがあった。これによれば、『新聞雑誌』明治𝟒年𝟖月に掲載された開化都々逸三連詠となる。都々逸どどいつ の一種だったらしい。都々逸は俳句や川柳より長いが和歌よりは短い𝟕文字×𝟑+𝟓文字の𝟐𝟔文字で作る詞を音楽に合わせて歌う遊びで、今のツイッターみたいなもんだが、ただの文字の羅列ではなく節つきのツイート、ラップといったところだろうか。先日、𝐉ポップと洋楽の違いを『関ジャム完全燃𝐒𝐇𝐎𝐖』で採り上げていたと少し触れたが、近年の米国の流行歌の特徴に近い。音楽の流行は旋律重視と言葉やリズム重視が繰り返される傾向があると感じるが、今の日本は旋律重視だということに過ぎない。いずれまた変わる可能性は大いにある。


 さて、由来は断髪令をきっかけとした木戸孝允の作戦と『新聞雑誌』明治𝟒年𝟖月ということで片付いたかのように思えるが、疑問がある。断髪令は明治𝟒年𝟖月𝟗日の太政官布告という形で出された、俗謡はその𝟑ヶ月前に新聞に掲載されたと情報が出ている一方、『新聞雑誌』明治𝟒年𝟖月に掲載されたという情報がある。𝟑ヶ月前なら𝟓月でないと話が合わない。また、「明治𝟒年𝟖月𝟗日」がいつのことなのかもはっきりしない。この頃はまだ現行の暦が採用されていないので、日付は旧暦な可能性がある。旧暦と仮定すれば、明治𝟒年𝟎𝟖月𝟎𝟗日は現在の暦だと𝟏𝟖𝟕𝟏年𝟎𝟗月𝟐𝟑日となる点も注意が る。

 表記に関してもはっきりしない点がある。上記引用以外でも検索結果で多いのは「ちょんまげあたま」を「半髪頭」としている点。ちょんまげは普通は丁髷になる。[チョン]は丁のことなので。ただ、江戸時代以前の和訓と表記の関係は現代ほど規則的ではないので、半髪と書いて[チョンマゲ]と読んだとしても不思議ではない。現代でも作詞をする人が漢字に好きな読みを当てたり、ドキュン
DQN
ネームと言われキラキラネームと言わせているような、変則的な読み方を当てているのは、ある意味伝統的で、『万葉集』の頃から既にみられる。非論理的でいいかげん
宜加減
で何となく感覚的だが以心伝心でなぜかうまくいくのが日本の伝統なのだろう(笑)

 「総髪頭」に関しては上記𝟑つの記事では「惣髪頭」となっている。これはどちらでもかまわない。𝟏𝟗𝟓𝟔年﹦昭和𝟑𝟏年以降は「惣」を旧表記として原則「総」に書き換えることにしている。当用漢字表になかったことが理由で、別に旧字ではない。「総」の旧字は「總」になる。慣例的に「惣菜」と今でも書かれることが多いが、「総菜」と書いても間違いではない。

 全理連と東進に共通する特徴としては、「因循姑息の声がする」「王政復古の音がする」「文明開化の音がする」と最初だけは「声」になっている点。可能性としては

①原文も「声」だった。
②原文が不詳で複数の表記が流通していた。
③意図せず間違ったのを知らずに複写した。
④複写を警戒して意図的に誤記をした


というのがすぐに思い当たるところ。ほかにもまだあるかも知れない。いずれにせよ安直に間違いかそうでないかと判断できる代物ではないのでとりあえず𝟏𝟖𝟕𝟏年﹦明治𝟒年の『新聞雑誌』とやらを確認してみないことにはなんとも言えない。

 ちなみに人材に関する情報処理の話をすると、この場合、すぐに「間違った」「パクった」か否かの𝟎次元的思考で結論を下す人も必ず発生する。すると複数の可能性を考えている人とは状態が異なるのでその後の展開も変わるし、確認しないとそご
齟齬
が生まれることになる。しかし𝟎次元で複数の違いを説明するのは困難なことなので、受容される可能性は低い。すると「屁理屈」「反抗的」という反応をする人が出る。そういう発想が無かった性格の良い人は知っておくといい。また、④のようなケースで「人を信用していない」としてそこから心理分析ごっこを始める人もいる。こうなると日本語同士であっても会話やコミュニケーションは成立しなくなる。一方、複数の可能性が考えられて当然あるいは思いつかなかったけどそうともとれると自然に受容できる組織や集団ではごく普通に会話が進む。一口に「コミュニケーション」と言っても中身は全く異なるので注意が必要。「優秀な人材が欲しい」とか「コミュニケーション力が必要」と漠然とした物言いを好んでそれ以上の具体性が無い場合、そこまで突っ込んだことをちゃんと考えた上でものを言っているかを確認した方が良い。流行語だからそう言っているだけなのか、考えてはいるが力不足なのか、ちゃんとした考えがあるのかが見えてくる。たいていの場合は言いっぱなしで確認の余地を与えない。こういうのを「𢱧判に耐えられない」という言い方をする。集団の性質を見抜くには良い手懸かりになるので知っておくと良い視点だと思う。

 また、④は実際に知的財産保護の観点から戦略的に行われることがあるので、知っておいた方が良い。名目上高等教育を修了したことになっている人ですら感情論や精神疾患でしか物事を解釈しない;できない分析が専門家から素人までちょくちょく出て来るが、こういうところで情報処理力に差が生まれてしまう。

 今回の都々逸に関しては、最後の「散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする」だけが特に知名度が高い。大学入試の日本史ではもう出ないかも知れないが、一応用語集には載っていると思う。知っていたからどうというほどのことじゃないので無理におぼえる必要は無いと思うが、余裕があれば知っていて損は無い。前𝟐つは知らなくてもかまわない。

 個人的には小𝟒か小𝟓の頃に日本史の概略を描いた短い付録漫画を読んだ際に記憶したのが最初だと思う。前𝟐つは中𝟐の時に駅の本屋の参考書のコーナーで手に取った歴史の参考書のコラム欄に書いてあったことで初めて知った。全体的にはそれほど詳しい内容ではなく役に立ちそうでなかったので買わなかったが、これだけはおぼえておいた。どこに出て来る言葉なのか気にはなったが、その後追加の情報にでくわす機会は無く、先日ブログを書いたあとに標題をつける段階でふと思い出したので、使ったついでに検索をしてみたらたくさん出てきた。それらを少し読んでみたことで今回の内容となった次第。以下、冒頭に戻る。
posted by Marimó Castellanouveau-Tabasco at 20:24| 情報処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする