2018年02月01日

欠けまして、おめでとうございます

 アラビーヤ語は日本ではほとんどなじみが無い言語で、アラビーヤ語圏から来た人を除けば、しゃべれる人はごくわずかしかいないようだが、それでも以前に比べれば多少増えているのかも知れない。中東の人は意外と英語が話せたりするので、出張や転勤で現地を訪れても、現地語を使わずに生活ができたりすることもあるようだ。身近でバグダードに何年かいた人もいたが、全然話せない、普段は英語と言っていた。

 一方で、イスラーム教の聖典クルアーン﹙﹦コーラン﹚はアラビーヤ語で、建前としては翻訳を禁じているため、アラビーヤ語圏外の国の人も、信者であればアラビーヤ語には親しんでいるよう。以前、イーラーンの学生が、学校の授業で何が苦手か聞かれていたさい、アラビーヤ語と答えていた。どこの国でもやっぱり母国語でないと面倒なよう。加えて、聖典の言語を使うということは、𝟏𝟎𝟎𝟎年以上前の言語を使うということでもあり、現代の生活とは感覚が違うこともあって、なかなか複雑に感じる言語でもあるよう。特に数字の数え方が複雑で、ネイティヴでも学校で習うのは中学以降だという話も耳にしたことがある。日本で言えば平安時代の言葉、つまり古文で出て来る『枕草󠄂子』や『源氏の物語』の言葉を使って会話をしているようなものだ。ひふみ詞で現代の数字を表すのはたしかに面倒くさそうではある。

 残念ながら戦乱に関係したニュースが増えるという形で、アラビーヤ語圏も日本でどんどん身近になっていった。しかし、近年は外国人観光客の増加や日本企業の海外進出の増加でもより身近になっている。日本人が思っている以上に日本の製品や文化が向こうで知られていることなども日本に情報として入る機会は増えた。知らない間にいろんなものが現地に渡っていたようだが、その一つが𝟏𝟗𝟖𝟎年代に放送されたドラマ『おしん』で、先週苗字の番組ではエジプトにおける『おしん』の影響について紹介されていた。地震や戦争といった苦難を乗り越えて生きていく様子が現地人の共感を生んだらしい。番組では触れられていなかったが、イーラーンでもそういった話があることは耳にしている。中東全体で評判がよかったようだ。

 番組はいつも苗字について話題にしているのに前回はなぜか個人名にこだわっていた。そして、『おしん』の人気ぶりから、子供に『おしん』と名付けた人もいたとのことで、エジプトで少なくとも𝟑人みつけたとして紹介していた。放送されたのが𝟏𝟗𝟗𝟎年代ということもあって、現在𝟐𝟐~𝟐𝟑歳だった。定着するのか一過性で終わるのかは数十年してみないとわからないが、宗教系由来の名前が多いので非常に珍しいらしい。

 ドラマの登場人物のイメージから、働き者・正直者・向上心があって賢いという意味が連想されるそうで、お店の名前に使われているとも紹介されていた。看板が何軒か映ったが、その𝟏つの語頭が見慣れない字形だったので、あとで確認のためにウィキペディアをみてみたものの、文字字体は特殊なものではなかった。アリフと呼ばれる、ラテン文字で言えば「𝐀」のような最初にくる基本的な文字なのだが、書き方が少し変わっていて、「ヘ」のようになっていたので、それほど慣れているわけではない私にはアリフだとすぐには断定できなかった。通常は「ﺍ」と、縦棒を引く。日本では今は続け字をしないが、アラビーヤ文字では今でも続けるので、形は更に左方向へ線がのびる。右から左へ書くのが原則。興味を持って学ばないとなかなか知る機会がないと思うが、そういう原則は知っておいても損は無いんじゃないかと思う。

 日本では縦書きをして右から左にむかって進むが、アラビーヤ語では横書きで右から左へ進む。常に筆記体なので、もう最初から筆記の形を基本形とは別におぼえてしまう。独立形𝐢𝐬𝐨𝐥𝐚𝐭𝐞𝐝 𝐟𝐨𝐫𝐦・頭字形𝐢𝐧𝐢𝐭𝐢𝐚𝐥 𝐟𝐨𝐫𝐦・中字形𝐦𝐞𝐝𝐢𝐚𝐥 𝐟𝐨𝐫𝐦・尾字形𝐟𝐢𝐧𝐚𝐥 𝐟𝐨𝐫𝐦の𝟒つに分かれている。単語の語頭に来るか、中ほどにくるか、語末にくるかで、字の形が違う。ややこしそうに思えるが、もしおぼえようとするなら、取り敢えずは独立形をおぼえた方がいいように思う。独立形を続け書きしようと思うと自然に他の形と似てくるので。一部、知らないとわからない形もあるが、全部が頭に入ったあとで例外的に変更すればいい。

 ニュースなどでアラビーヤ語の地名・人名が出てくると、「アル○○」と耳にすることが多いと感じるかも知れない。𝐓𝐕局のアルジャジーラのように。シャルム・エル・シェイクというエジプトの観光地もあるが、エジプトでは𝐚𝐥ではなく𝐞𝐥が普通なよう。方言があるので国によって、地域によって多少発音は変わる。

 高校世界史でハールーン・アッラシードという人物が出て来るが、この「アッ」もアルになる。定冠詞で英語でいうところの𝐭𝐡𝐞に相当するものだが、後ろに来る文字との関係で発音が変わる。日本語でいう促音便「っ」のような詰まった感じになる。正確には声門閉鎖音と呼ばれて、音を止めているようだが、まぁ専門用語はいいだろう。

 この詰まるかいなかを分類したものが太陽文字と月文字と呼ばれるもので、太陽文字であれば、定冠詞アルの「ル」の部分、ラテン文字での𝐋に相当するラームを発音せず、子音を重ねる。𝟏𝟒あって、

ل[l], ن[n], ذ[ḏ], ر[r], س[s], ز[z], ش[š], ص[ṣ], ض[ḍ], ط[ṭ], ظ[ẓ], ت[t], د[d], ث[ṯ]


となる。おぼえたい人はおぼえたらいいが、たぶん初めてだと文字も発音もちんぷんかんぷんだろう。とりあえず、「アル○○」と発音する場合と、「アッ○○」と発音する場合があるということだけ知っておけばいいと思う。本当は地名でも「アル」はついているのだが、省略するのが普通なのか、ニュースで紹介する地名のほとんどはアルがついてない。イラクも本当はアルがついている。現地人が喋っているのを聞いてもアル・イラキーヤと言っているのを耳にしたことはない。「ザ・テリーマンが正式だが、普段はテリーマンと呼んでいるようなもの」と考えれば、ある世代の日本人男子にはわかりやすいんじゃないかと思う(笑) 「ザ・ビートルズ」もそうだが、昔のバンド名はけっこう定冠詞 𝐭𝐡𝐞 がついていることが多いようには感じる。いつの間にか取れてしまうことが多いが、そのうち元からザがついていないバンドが普通になっていた。アルの場合、文字で書くと𝐚𝐥が書かれていることが多い。いわゆる置き字になっている。

 一方、アラビーヤ語のラテン文字表記では、記号のようで記号じゃない表記もある。「‘」なのだが、これはシングルクォテイション・マーク、つまりカッコの始まりではない。「'」と書かれることもあるが、やはりアポストロフではない。れっきとした文字で、アインという。イラクの「イ」の部分がこの文字を使う。発音がややこしくて私はいまだにアイン単独の音を使い分けられない。イラクのイは普通にイと聞こえる。しかもアインの発音は声門閉鎖音だという。あってないようなもの。さらに、アインでなく声門閉鎖音を表す方法がアラビーヤ語には他にもいくつかあって、それらは記号を使って表している。なぜ同じ音なのに書き方が複数あるのかよくわからないが、時代とともに音が変わったのか、発音と表記のズレを修正するためにあとから記号を加えたかじゃないかと思う。タイ文字では発音が減った関係で、綴りは違うものの発音は同じというケースがある。日本語でも「ゐ」と「い」、「は」と「わ」等が、同訓異字になっている。

 アラビーヤ語でアインは

「ع」


だが、ラテン文字では「‘」となる。中世の頃から既に使われていたよう。音がラテン語などより多かったので文字が足りず苦肉の策だったのかも知れない。ラテン文字圏は基本的に文字は増やさず、似た様な記号をあちこちにつけて使い回すことが多い。文字をくみあわせてどんどん増やしていく漢字文化圏とそこが違う。入口の敷居が低いのはラテン文字、使いこなすと便利になるのが漢字。アラビーヤ文字はラテン文字より多く覚えるのも大変だが、子音が多い点は優れている。

 ギリシャ語でも「Άθηναι」のような書き方があり、フランス語やスペイン語などは𝐇が単に無音だったりするが、どうもアインと発想は同根じゃないかと感じている。声門閉鎖音という発音がどうやって生まれたのか知らないが、自然と出て来る発音方法なのだろうか?

 で、「おしん」だが、

اوشين


とつづるらしい。直訳するとawšyn。šはsh[ʃ]のこと。しかし、番組で出ていた看板のうち最初のものは、母音記号もついており、

اُوشِين


だった。uwshiynになり、uwやiyは長音を表す時に使う並べ方なので、ウーシーンになりそうなものだが、現地の人は普通に「おしん」と呼んでいた。

 一応知ってて損がない点でいえば、アラビーヤ文字は基本的に母音は書かない。子音の塊。アリフは[a]だが、これは例外的。ワクテカをwktkと略しているネット用語の風習はそれに近い。アラビーヤ文字で表せばوكتكになる。古代メソポタミアの文字や言語も子音中心らしく、人類の文字はどうも子音だけを書きあらわすのが最初だったよう。母音が強く出る・母音と子音をセットで発音するのが基本の日本人としては「子音だけ」という感覚がわかりにくい。

 しかし、母音を書いてくれないと文字だけの場合、なんと発音していいのかわからない。وكتكが𝐰𝐤𝐭𝐤のことだと分かってもこれだけではゥクトゥクになってしまう。わからないときはどうするのか私も知らないので気になっているのだが、古代エジプトのヒエログリフでは、全󠄃部𝐞を当てているよう。ヒエログリフは絵のように見えるが、実は完全な表意文字ではなく、表意文字と表音文字がまじっているらしい。日本語とその点は似ている。勿論、勝手に𝐞を当てているだけなので、当時の発音がそうだったかはわからない。𝐰𝐞𝐤𝐞𝐭𝐞𝐤𝐞と読んでいるようなもの。ウェケテケ。実際のワクテカとは違う。ヒエログリフの場合、ロゼッタストーンのように比較できる文字体系があるので、全部が不明というわけではないようだが。

 あともう𝟏つ知っておくといいのは、母音が𝟑つしかない点。ラテン文字でいうところの、𝐀と𝐈と𝐔しかない。𝐈と𝐄、𝐔と𝐎は区別がないので、どっちにも読めるし、どっちにも聞こえる。名前の𝐔𝐬𝐚𝐦𝐚がウサマだったりオサマだったりするのはそれが原因。

أُسَامَة


なのでどうもオサーマが正しいようだが、ウサーマで間違いとも言い切れない。日本の報道関係はアラビーヤ語ができる人が少ないからか、英語表記・英語発音の流用をしているようだ。先ほどの定冠詞アルにしても、アル・シャバブとかアル・ラシードと言っているのは耳にする。本当はアッシャバーブとかアッラシードだろう。以前も触れたが、長母音と短母音の区別もあるので、伸ばすところはしっかり伸ばしたほうがいいが、そこも報道では宜加減なので、現地の人が言っているのを耳をこらして聴くか、調󠄃べるか、知っている人に教えて貰うかしかないようだ。

 とりあえずアラビーヤ文字に関して知っておいたらいいのはこんなところだろうか。文字を全然覚えていなくても、英語の表記をみてなぜそうなのかがこれで多少理解できると思う。

 なお、以前話題にしたように、「おしん」は中国語では「阿信」らしい。阿は幼名につける古い習慣で、「○○ちゃん」的な意味合いだから、子供時代の様子と結び附けたのかも知れない。「信ちゃん」といったところだろう。クレヨンがつく方とは似ても似つかないが(笑) しかし、日本での昔の女性名に「お○○」が出て来るのは中国語の「阿」と実は関係あったりするのだろうか?赤ん坊をあやす時のレロレロレロレロが中国語の遼来遼来(遼が来る、遼が来る)から来ており、この遼は『三国志演義』にも登場する猛将張遼󠄃のことだと知った時は驚いた。思わぬところで外来語だったりすることがある。

 中国の武将といえば、『キングダム』というアニメも少しだけみたことがあるが、中国の戦国時代末期を舞台にしており、主人公の名前が信だった。貧民出身で姓は持っていない。主君が𡣍政、つまりのちの始皇帝だから、この信は統一の立役者の一人、李信のことかと思ったが、ベースに歴史を使っているだけで、実際はけっこう架空の人物が登場しており、あまり史実とは関係無いよう。

 𝟐𝟑時𝟓𝟗分頃の制限を外すととりとめがなくなってよくないな。時間制限をつけて書いたから内容がよくなるというわけでもないが、大学入試小論文の頃のような緊張感は久しぶりに味わえた。あの頃と時間配分は違うのだが、誤字脱字の修正も少し異なる点は面白い。キーボードを叩いている場合は、修飾語や文節の入れ替え時にコピペによる移動で生じるミスや、変換ミスといった、手書きでは起こらない誤字脱字がある。
posted by Marimó Castellanouveau-Tabasco at 01:37| 地名人名 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする