2017年10月23日

多様性と境界

 超大型台風としては本州初上陸になるらしい台風𝟏𝟕𝟐𝟏号ḷañ[ラン]だが、全国各地の台風関連情報を見ていてふと気づいた。サッカー・ワールドカップ日韓大会で決勝の会場にもなった神奈川県横浜市の日産スタジアム、その北側を流れる鶴見川にかかる橋は亀甲橋[かめのこうはし]と言うらしい。

𝐆𝐨𝐨𝐠𝐥𝐞 マップ


 スライダーで左の写真の下の方を出してクリックすると右側に反映される。右側の「+」を押すと拡大されて欄干の橋梁名が平仮名で読める。

 しかしそばに在るバス停は亀甲橋[かめのこばし]停留所。

東急バス時刻表


 更に、そのそばに在る交差点は亀の甲橋[𝐊𝐚𝐦𝐞𝐧𝐨𝐤𝐨 𝐛𝐫𝐢𝐝𝐠𝐞]交差点




 更に、河川水位情報では「亀の子橋」

横浜市 水防災情報のページ


 しかもここでは住所が港北区小机甼[こづくえちょう]扱いになっている。水位観測用の機器が南側にあるのかも知れない。さきほどの交差点は北岸、港北区新羽甼[にっぱちょう]になっている。これで自治体も異なったら面白いところだったが。ここは中世、鶴見川を挟んで小机城と亀甲山で陣を張った戦もあった古戦場らしいので、小机なのか亀甲なのかは随分違うようにも思う(笑) そしてまた古戦場にスタジアムが作られて試合が行われているというのも因果縁を感じる。気象学上の認識があるのかは知らないが、この一帯は内陸と東京湾との天気の境でもあって、個人的には「気象境界線」と呼んでいる。オリンピックでは北は埼玉から南は神奈川の相模湾まで会場が分散することになり、海外からは「東京」という一つの町扱いの認識がますます広がることになるだろうが、天気は埼玉~川崎、神奈川内陸、東京湾沿岸、湘南・横浜南部以南とけっこう違う変化の仕方をするので、大会が開かれる夏場のような夕立ちの懸念がある時期は特に注意がいる。観光や仕事で来る人はその点を頭の隅に置いておいた方が良い。

 亀甲の表記や読みに関してはネットで既に話題になっていそうと思って探したところ、すぐにみつかった。

𝟐𝟎𝟎𝟔年﹦平成𝟏𝟖年𝟎𝟖月𝟏𝟐日 鶴見川散歩エトセトラ

𝟐𝟎𝟎𝟕年﹦平成𝟏𝟗年𝟎𝟖月𝟐𝟑日 ブログ@新横浜

𝟐𝟎𝟏𝟕年﹦平成𝟐𝟗年𝟎𝟒月𝟏𝟒日 皆空亭日記


 やはり地元民には知られた混乱のよう。随分前から知られた話のようだが、統一する気は無いのだろうか?管轄は国土交通省の河川管理事務所と国土地理院と横浜市と東急バスになるのかも知れないがよくわからない。ちなみに水防関係では「氾濫危険水位」と「溢水危険水位」も混在していた。この2~3年で「氾濫危険水位」に統一された気はするが、全国全てで確認したわけじゃないので他にも「行政方言」があるやも知れない。

 上記のブログのコメント欄には星谷;星ケ谷;星ケ谷戸という事例も紹介されていた。この手の違いは全国に多数ある。つまり
「箇」が付かない
「箇」が付く
「ケ」と略される
「ヶ」と縮小される
というパターン。けっこう問い合わせが多いらしい。どれでもかまわない。気にしすぎとは思う。ただ、検索や置換の便を考えると統一してくれていた方がありがたい。基本的には「箇」と「ケ」は別物扱いにされ、「ヶ」と「ケ」は迷ったら「ケ」で書くと面倒が少ない。しかし見た目には「ヶ」の方が読み易かったりするのでこれがまた難しい。

 こういう話をすると「これだから日本は~」的な展開に持っていく人もいるかもしれないが、例えばドイツ語だとウムラウト記号をつけるか否かでけっこう面倒がある。独墺では基本的にä, ö, üだが、スイスのドイツ語圏やウムラウトを使わない場合の表記は𝐚𝐞, 𝐨𝐞, 𝐮𝐞だし、英語圏だとそういう記号が出せない・書き換え方法も知らない人はそのまま𝐚, 𝐨, 𝐮と書いたりして、結果的に地名や人名で混乱が起きたりする。日本語のローマ字表記にヘボン式や訓令式といった複数の手法があるように、ロシア語のキリル文字表記もラテン文字表記に変換する方法が複数あって、同じ地名や名前なのに綴りが異なり、知らないと混乱したりする。どこも似たようなものだ。

 地名につく「谷」は[たに|や|やつ|やち|やと]といったいくつかの読み方がある。大学の時に先輩から教えてもらい初めて違いを意識したのだが、[たに]というのは西日本の言葉で関東には無かったから、関東で「谷」は[たに]とは読まないらしい。

 面白かったのでその後「谷」に関する地名を目にする際は気を付けていたら、たしかに関東では「谷」がことごとく[たに]ではなかった。最初は関東だと[や]と読んでおけば間違いないと思っていたが、その後[やち][やつ]といった読み方があることもわかり、更に東日本・北日本全体でそうだとわかってきた。

 そうなると境󠄂はどこなのだろう?と気になるので住所を調べてみると、東海地方に関しては尾張と三河だった。北側の境も岐阜・北陸辺りなのだが、細かい場所まではまだ確認していない。気が向いたらやってみるが、既にネットで指摘されているかも知れない。先日名字の番組で五十嵐[いからし|いがらし]の境を調べていたが、大元が新潟県中越部三条市の五十嵐神社で、[いかたらし]の省略形[いからし]が本来。なので新潟では[いからし]が普通だが、山形県庄内部南域鶴岡市鼠ケ関[ねずがせき]を境に[いがらし]が多くなるとのこと。『ハイスクール!奇面組』だったと思うが、昔アニメで「五十嵐」という名前の人をどう読むか議論して実は[ごじゅうあらし]が正解だったというオチがあった気がするが、実用名字一覧では実際の姓氏に[ごじゅうあらし]は見当たらなかった。なお、[やまさき]と[やまざき]の境は兵庫県南部姫路市だそう。この手の東西の境話だと、「探偵ナイトスクープ」という番組で「あほ」と「たわけ」の境を探して岐阜県美濃部不破郡関ヶ原甼とつきとめていたらしい話も思い出す。

 番組では[いがらし]が生まれた理由を、東北弁で[𝐠 | 𝐤]の区別が曖昧なことに着目して推測していた。一般に東日本は濁音が多く、西日本は清音が多いそうで、同じ理由から来ているとされるらしい。朝鮮語も[𝐠 | 𝐤]や[𝐭 | 𝐝]の区別が曖昧。ドイツ語だと語末で[𝐠][𝐝]が[𝐤][𝐭]になるなど、珍しくはないのかも知れない。英語でも過去形の−𝐞𝐝でみられる。一方中国語では𝐠が[k]で𝐤が[k‘]、𝐝が[t]で𝐭が[t‘]のように強弱で区別をしたりする。

 アクセントの関係で音が弱くなったり、元々区別しない言語などは有声音と無声音が曖昧になったり交替したりする現象が起こる。こういうことを知っておくと聴き取りやつづりの推測に役立つので暗記の労力も減ったりするのだが、必ずしも学校の英語の時間に教えられている・徹底されているわけではないかも知れない。他の教科以上に日本の英語教育は時代によって、学校によって、先生によって環境がかなり異なると思うが、実態は私もよく知らない。この辺はまた別途話題にしよう。

 なお、原則に対して例外はつきもので、関東でも[たに]と読む例はいくつかみつけている。

たにがわ群馬県北部みなかみ町谷川
みずたに埼玉県南部富士見市水谷
みずたにひがし埼玉県南部富士見市水谷東
たに千葉県北西部流山市谷
たかだに千葉県南部いすみ市高谷
うぐいすだにちょう東京都𝟐𝟑区部渋谷区鶯谷甼
たにがはら神奈川県西部相模原市緑区谷ヶ原
こわくだに神奈川県西部足柄下郡箱根町小涌谷
さかいのたに神奈川県東部横浜市西区境之谷
ほんもくさんのたに神奈川県東部横浜市中区本牧三之谷
いけのたに神奈川県東部横浜市泉区池の谷


 東京では鶯谷[うぐいすだに]という駅も在るが、近辺にかつてあったお寺の住職が京都から派遣される貴族だったらしい話を耳にしたことがあるので何か関係があるのかも知れない。それ以外については由来までは確認していない。
posted by Marimó Castellanouveau-Tabasco at 12:29| 情報処理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする