音楽と組織と人材

　以前（いぜん）もページヴューの話題（わだい）をしたが、このサイトは普段（ふだん）と変（か）わりないのに、全体（ぜんたい）の順位（じゅんい）が突然（とつぜん）変（か）わる事がある。今回（こんかい）は平成（へいせい）𝟑𝟎年（ねん）𝟕月豪雨（ごうう）で一気（いっき）に順位（じゅんい）が落ちた。つまりそれだけ普段（ふだん）使（つか）っていない人が災（さい）害（がい）関係（かんけい）で使（つか）ったのかも知れない。同じ時期（じき）に学生（がくせい）が試験（しけん）期間（きかん）に入ったというのもあると思（おも）う。さらに酷暑（こくしょ）の所為（せい）もあるかも知れない。豪雨（ごうう）や暑（あつ）さの話題（わだい）が一段落（いちだんらく）した昨日（きのう）突然（とつぜん）順位（じゅんい）が上がった。この生活（せいかつ）カテゴリだと豪雨（ごうう）のころの𝟓𝟎𝟎𝟎位くらいから𝟏𝟗𝟎𝟎位くらいへ上下（じょうげ）をしている。多少（たしょう）の上下（じょうげ）はあるだろうとは思っていたが、けっこう極端（きょくたん）に変（か）わるものらしい。週末（しゅうまつ）には台風（たいふう）𝟏𝟖𝟏𝟐号종다리（ジョンダリ）が上陸（じょうりく）するとみられているので、その時にどう変動（へんどう）するかで「夏（なつ）休（やす）み」という要素（ようそ）と「災（さい）害（がい）」という要素（ようそ）のどちらが強く働くのか多少（たしょう）判（わか）るかも知れない。そして台風（たいふう）が去ったあとは再（ふたた）び猛暑（もうしょ）になるとのことで「暑（あつ）さ」の要素（ようそ）との差（さ）し引きも見えてくるのだろう。

　昨日（きのう）の「近世（きんせい）邦楽（ほうがく）における間（かん）テクスト性（せい）」の振（ふ）り仮名（がな）は作業（さぎょう）が完了（かんりょう）した。和楽（わがく）の話（はなし）をここでするつもりも無（な）かったが、人材（じんざい）論としても面白（おもしろ）いところはある。雅楽（ががく）も管弦打（かんげんだ）の三種類（しゅるい）の楽器（がっき）群から成るが、雅楽（ががく）の楽団（がくだん）は打楽器（がっき）奏者（そうしゃ）がもっとも重要（じゅうよう）でリーダーになるらしい。バンドマスターとかコンサートマスターとか指揮者（しきしゃ）の役割（やくわり）になる。しかしその就任（しゅうにん）への過程（かてい）では全ての楽器（がっき）を経験（けいけん）するそう。𝟏𝟎𝟎𝟎年（ねん）以上（いじょう）前（まえ）からあるわりに意外（いがい）と現代（げんだい）の日本（にほん）の企業（きぎょう）と似（に）ている。

　一方（いっぽう）、欧州（おうしゅう）の交響楽団（こうきょうがくだん）は指揮者（しきしゃ）が完全（かんぜん）に独立（どくりつ）した役割（やくわり）になっており、全ての楽器（がっき）を経験（けいけん）する事はない。最初（さいしょ）から指揮者（しきしゃ）として養成（ようせい）される。もちろん楽理（がくり）やピアノといった共通（きょうつう）の要素（ようそ）は修（おさ）めるし、ヴァイオリンやピアノ等楽器（がっき）の専門（せんもん）奏者（そうしゃ）が指揮（しき）を兼任したり転職（てんしょく）したりする事もある。こういった育成（いくせい）方法（ほうほう）もまた、欧米（おうべい）の企業（きぎょう）と似た所（ところ）があるなと感（かん）じる。

　そういう、意外（いがい）と芸術（げいじゅつ）分野（ぶんや）が現代（げんだい）社会（しゃかい）の先駆（せんく）になっている面もあったりするのでまた機会（きかい）があれば触れようと思（おも）う。

近世邦楽における間テクスト性﹙徳丸吉彦＆小塩さとみ﹚

　昨日（きのう）最後（さいご）に少し触れた間（かん）テクスト性（せい）、今日（きょう）少し検索（けんさく）してみたらたくさん出て来（き）たので見繕（みつくろ）っておいた。

間（かん）テクスト性（せい） - Wikipedia

残響（ざんきょう）「３ー２。間（かん）テクスト性（せい）」『引用（いんよう）論』

　残響（ざんきょう）というのは筆名（ひつめい）らしいが、他に記事（きじ）が無（な）く何者（なにもの）かは不明（ふめい）。記事（きじ）で示唆（しさ）している話は宇多田（うただ）さんが意図（いと）していたものと近い想定（そうてい）じゃないかと思（おも）う。

　音楽（おんがく）関係（かんけい）に関しては

徳丸（とくまる）吉彦（よしひこ）『音楽（おんがく）とはなにか』

小塩（おしお）さとみ『長唄（ながうた）における音楽（おんがく）表現（ひょうげん）―「鶴亀（つるかめ）」にみる間（かん）テクスト性（せい）と象徴（しょうちょう）技法（ぎほう）―』

　私（わたし）が放送（ほうそう）大学（だいがく）で観たのはこの二人（ふたり）による講義（こうぎ）で、徳丸（とくまる）さんの著書（ちょしょ）に関しては過去（かこ）の記事（きじ）の集合（しゅうごう）らしいので、似たような話が出ているのかも知れない。和楽（わがく）関係（かんけい）は海外（かいがい）でも興味（きょうみ）関心（かんしん）を持（も）っている人はいるが、日本語（にほんご）でさえネット上での情報（じょうほう）が少ないのが現実（げんじつ）なので、講義（こうぎ）メモをテキスト化（か）してみた。

　以下は𝟐𝟎𝟎𝟗年（ねん）﹦平成（へいせい）𝟐𝟏年（ねん）𝟑月（さんがつ）𝟐日（ふつか）に視聴（しちょう）したもので、再放送（さいほうそう）が多（おお）いから本放送（ほんほうそう）がいつだったのかは知らない。図も描いてあるし音源（おんげん）も録（と）ってあるが省略（しょうりゃく）する。

------以下、講義（こうぎ）メモ------

　日本（にほん）の音楽（おんがく）の中でも江戸（えど）時代（じだい）に成立（せいりつ）した音楽（おんがく）を採（と）り上（あ）げてそのジャンルや楽曲（がっきょく）がどのような関係（かんけい）にあるかという事をみる。

日本（にほん）の音楽（おんがく）を含む日本（にほん）の文化（ぶんか）全体（ぜんたい）の特質（とくしつ）
　第𝟐次（だいにじ）世界（せかい）大戦（たいせん）後（ご）、特に𝟏𝟗𝟔𝟎年代（ねんだい）以後（いご）、社会（しゃかい）科学（かがく）の専門家（せんもんか）達（たち）が興味深（きょうみぶか）い考（かんが）え方を提出（ていしゅつ）。

𝐞𝐱−𝟏﹚ 丸山眞男（まるやままさお）の蛸壺（たこつぼ）と簓（ささら）の対比（たいひ）

　蛸壺（たこつぼ）：それぞれの文化（ぶんか）のジャンル。日本（にほん）の音楽（おんがく）で言（い）えば長唄（ながうた）；地歌（じうた）など
　　﹦それぞれ関係（かんけい）無（な）く別々（べつべつ）にある　という事を表す。

　簓（ささら）：西洋（せいよう）の文化（ぶんか）。先（さき）は右（みぎ）と左（ひだり）で離（はな）れているが、根本（こんぽん）の所（ところ）では繫（つな）がっている　という事を表す。

徳丸（とくまる）曰（いわ）く、長唄（ながうた）を習（なら）った時の楽譜（がくふ）と、義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）を習（なら）った時の楽譜（がくふ）が違（ちが）う。蛸壺（たこつぼ）なのかと思ったことはある。

𝐞𝐱−𝟐﹚ 中根（なかね）千枝（ちえ）の縦（たて）社会（しゃかい）モデル
　ある流派（りゅうは）、別（べつ）の流派（りゅうは）が縦（たて）に並（なら）んでいる。お互（たが）いに無（む）関係（かんけい）にやっている。

　本講義（ほんこうぎ）では𝟑（みっ）つの三味線（しゃみせん）音楽（おんがく）のジャンルを採（と）り上（あ）げる。

・地歌（じうた）：箏曲（そうきょく）と一緒（いっしょ）に伝承（でんしょう）されて来（き）た日本（にほん）の室内楽（しつないがく）。劇場（げきじょう）と無（む）関係（かんけい）。弾（ひ）き語（がた）りが慣習（かんしゅう）。
　　　　　　　　↕
・長唄（ながうた）：歌舞伎（かぶき）の中心（ちゅうしん）的（てき）ジャンル。劇場（げきじょう）音楽（おんがく）。歌を唄う；声（こえ）を出（だ）す人とは分業（ぶんぎょう）。
・義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）：文楽（ぶんらく）の音楽（おんがく）ジャンル。歌舞伎（かぶき）でも使（つか）われる。劇場（げきじょう）音楽（おんがく）。歌を唄う；声（こえ）を出（だ）す人とは分業（ぶんぎょう）。

　中根（なかね）の縦（たて）社会（しゃかい）モデルに従（したが）えば、地歌（じうた）は地歌（じうた）、長唄（ながうた）は長唄（ながうた）、義太夫（ぎだゆう）は義太夫（ぎだゆう）。長唄（ながうた）の人でも派（は）があるとすると、皆が縦（たて）になっていて相互（そうご）に関係（かんけい）無（な）いという事になる。

　しかし、邦楽（ほうがく）の人と会って名刺（めいし）をもらうと、表側（おもてがわ）に長唄（ながうた）の芸名（げいめい）、裏側（うらがわ）に別ジャンルの芸名（げいめい）が書（か）いてある、という事がある。本当（ほんとう）に縦（たて）なのか？

　ある考（かんが）え方に依（よ）れば、その人間（にんげん）が両方（りょうほう）やっているだけであって、ジャンルとしては縦（たて）社会（しゃかい）であり、蛸壺型（たこつぼがた）になっている、という説明（せつめい）も可能（かのう）。本当（ほんとう）にそうなのか？

　実はジャンルの間（あいだ）に音楽（おんがく）的（てき）な関係（かんけい）があり、ジャンルの中にも音楽（おんがく）的（てき）な関係（かんけい）がある事が分󠄃かって来（き）た。

　横（よこ）に絡（から）んでいる。楽曲（がっきょく）同士（どうし）が旋律（せんりつ）を交換（こうかん）したりする。﹦ジャンルという縦（たて）社会（しゃかい）；蛸壺（たこつぼ）と云われているものは実は横（よこ）に繫（つな）がっている。

　蛸壺（たこつぼ）でもない。縦（たて）でもない。縦（たて）的（てき）な性格（せいかく）があるにしても、実はそこに横（よこ）の連関（れんかん）もある。

間（かん）テクスト性（せい）
　𝟏（ひと）つの例（れい）としてこういう事を考（かんが）える為（ため）に用語（ようご）として使用（しよう）。

　テクスト　ラテン語𝐭𝐞𝐱𝐭𝐮𝐬：織（お）られた物（もの）。
　　単語（たんご）を組（く）み合わせたものも織（お）られたもの。
　　音楽（おんがく）の音を組（く）み合わせたものも織（お）られたもの。
　　　　　　　　　　　↓
　　𝟏（ひと）つのフレーズも、𝟏（ひと）つの楽曲（がっきょく）も、中間（ちゅうかん）にあるフレーズや段落（だんらく）も「織（お）られたもの」という事になる。
　　　　　　　　　　　↓
　　大（おお）きさに関（かか）わらず音の塊（かたまり）をテクストと言（い）う事が可能（かのう）。
　　本講義（ほんこうぎ）ではこの単語（たんご）で統一（とういつ）。

間（かん）テクスト性（せい）　𝐢𝐧𝐭𝐞𝐫𝐭𝐞𝐱𝐭𝐮𝐚𝐥𝐢𝐭𝐲（インターテクスチャリティ）
　テクストとテクストが関連付（かんれんづ）けられるとすれば、間（かん）テクスト性（せい）と言（い）う。

　𝐞𝐱−𝟏﹚ ベートーヴェン﹙以下、単（たん）にベト﹚の交響曲（こうきょうきょく）第𝟗（ｷｭｳ）番(以下、第九（だいく）)
　　第𝟒楽章でシンバルやトライアングルを打つ場面（ばめん）がある。
　　　ベトが独自（どくじ）に考（かんが）えたものではない。
　　　トルコの軍楽隊（ぐんがくたい）の音楽（おんがく）を真似（まね）したもの。
　　　　　　　　　↓
　　　ああいった響（ひび）きが出（で）る事によってベトの第九（だいく）という𝟏（ひと）つの大（おお）きなテクストとトルコの軍楽（ぐんがく）という大（おお）きなテクストが紐（ひも）で結び付けられている。
　　　﹦「間（かん）テクスト性（せい）の関係（かんけい）に入（い）れられた」という事になる。

　𝐞𝐱−𝟐﹚ 長唄（ながうた）；義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）では同じ節（ふし）で始（はじ）まる楽曲（がっきょく）がよくある。
　　﹦同じ旋律型（せんりつけい）で曲（きょく）が始（はじ）まったという事で、異（こと）なる作品（さくひん）が関連付（かんれんづ）けられてしまう。
　　﹦「間（かん）テクスト性（せい）の関係（かんけい）に入（い）れられた」という事になる。

間（かん）テクスト性（せい）を作る
　いろいろな方法（ほうほう）がある。最も広く使（つか）われているのは引用（いんよう）だと思（おも）う。
　日本（にほん）だけでなくアジア；西洋（せいよう）音楽（おんがく）でも。

　引用（いんよう）―言語（げんご）芸術（げいじゅつ）でもある。
　　日本（にほん）の和歌（わか）の「本歌取（ほんかど）り」
　　　藤原定家（ふじわらのていか）：『新古今和歌集（しんこきんわかしゅう）』の撰者（せんじゃ）。𝟏𝟐𝟎𝟎年（ねん）ごろの人。
　　　　本歌取（ほんかど）りの技法（ぎほう）について細かい説明（せつめい）を残している。
　　　　あとの人達（ひとたち）も本歌取（ほんかど）りは隨分（ずいぶん）意識（いしき）している。

　本歌取（ほんかど）りに当たる事が日本（にほん）の音楽（おんがく）の中にある。歌詞（かし）についてもそうだが、ここでは音の旋律（せんりつ）；リズム；音色（ねいろ）について。間（かん）テクスト性（せい）を作る為（ため）の仕掛（しか）けとして引用（いんよう）という事を少し詳しく採（と）り上（あ）げていく。

引用（いんよう）の定義（ていぎ）
　いくつかある。音楽（おんがく）における引用（いんよう）について先駆（せんく）的（てき）な役割（やくわり）を果（は）たした人物（じんぶつ）はポーランドの音楽（おんがく）学者（がくしゃ）ゾフィア・リッサ

引用（いんよう）：既存（きぞん）の音楽（おんがく）的（てき）フレーズを元とは異（こと）なる脈絡（みゃくらく）で使用（しよう）する事。

　　　　　　　　　　　　＋
　徳丸（とくまる）はもう少し細かい説明（せつめい）が必要（ひつよう）と考（かんが）えた。

引用（いんよう）される先行物（せんこうぶつ）は、時間（じかん）的（てき）な流（なが）れにおいて、隣接（りんせつ）する要素（ようそ）から分離（ぶんり）されなければならない。

三味線（しゃみせん）音楽（おんがく）
　調（しらべ）べて行くと引用（いんよう）の例（れい）が多（おお）い。それをどうやって分類（ぶんるい）したら好（よ）いか？
　　　　　　　　　　↓
　𝟐（ふた）つの基準（きじゅん）を組（く）み合（あ）わせる事によって引用（いんよう）してみよう、と考（かんが）えた。

第𝟏（だいいち）基準（きじゅん）：引用（いんよう）を行（い）う側の作品（さくひん）﹙新しい作品（さくひん）﹚と先行物（せんこうぶつ）﹙引用（いんよう）されるもの﹚との関係（かんけい）
　Ⓐ作品（さくひん）の引用（いんよう）：どの作品（さくひん）を引用（いんよう）したかが判（わか）る
　Ⓑ引用（いんよう）する側とは異（こと）なるジャンルの持（も）つ独立（どくりつ）旋律型（せんりつけい）の引用（いんよう）：何だか他のジャンルから持（も）ってきたことは判（わか）るがどの作品（さくひん）からかはわからない。
　ⓒ𝐀と𝐁とに含まれない、様式（ようしき）的（てき）特徴（とくちょう）のみの引用（いんよう）

第𝟐（だいに）基準（きじゅん）：引用（いんよう）の意味（いみ）
　Ⓓ先行物（せんこうぶつ）に固有（こゆう）な表示（ひょうじ）的（てき）意味（いみ）を伝達（でんたつ）する為（ため）：「雪（ゆき）」とか
　Ⓔ先行（せんこう）ジャンルに固有（こゆう）な主題（しゅだい）を導入（どうにゅう）する為（ため）：引用（いんよう）されるジャンルが「悲（かな）しみ」を表すなど
　Ⓕ統語論（とうごろん）的（てき）な変化（へんか）の為（ため）のみ：複雑（ふくざつ）な曲（きょく）を作る為（ため）に使用（しよう）

※疑問（ぎもん）：手癖（てぐせ）や偶然（ぐうぜん）性に対する考慮（こうりょ）は？

　実際（じっさい）には相互（そうご）に組（く）み合わせて𝟗（ｷｭｳ）通（とお）りに分類（ぶんるい）。

	𝐃	𝐄	𝐅
𝐀	𝐀𝐃	𝐀𝐄	𝐀𝐅
𝐁	𝐁𝐃	𝐁𝐄	𝐁𝐅
𝐂	𝐂𝐃	𝐂𝐄	𝐂𝐅

　　　　　　　　　↓
　具体（ぐたい）的（てき）にどういう風に引用（いんよう）が行（い）われているかを論じて行く。

グループ𝟏「雪（ゆき）」をめぐる間（かん）テクスト性（せい）
　「雪（ゆき）」……地歌（じうた）の曲（きょく）。他（た）ジャンルでもしばしば引用（いんよう）される引用（いんよう）の代表（だいひょう）例（れい）。
　　♪−𝐚𝟏 地歌（じうた）《雪（ゆき）》三味線（しゃみせん）：菊原（きくはら）光治（こうじ）
　　♪−𝐚𝟐 義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）《鶊山姫（ひばりやまひめ）》中将姫（ちゅうじょうひめ）雪責（ゆきぜめ）の段（だん）
　　　謡（うたい）：竹本（たけもと）千歳太夫（ちとせだゆう）
　　　三味線（しゃみせん）：鶴澤清治（つるさわせいじ）
　　　中将姫（ちゅうじょうひめ）が継母（ままはは）に雪（ゆき）の中で折檻（せっかん）されている場面（ばめん）。

　　♪−𝐚𝟑 長唄（ながうた）《綱館（つなやかた）》
　　　謡（うたい）：稀音家（きねや）義丸（よしまる）
　　　三味線（しゃみせん）：稀音家（きねや）助三朗（すけさぶろう）
　　　三味線（しゃみせん）：杵屋（きねや）六公郎（ろくきみろう）
　　　渡辺綱（わたなべのつな）のおばさんが綱（つな）の所（ところ）にやって来て、寒（さむ）い夜（よる）に雪（ゆき）が降っていて、子供（こども）のころに布団（ふとん）を掛（か）けて大事（だいじ）に育（そだ）ててやったのに、と言（い）う場面（ばめん）。


　いずれも先行物（せんこうぶつ）が地歌（じうた）の「雪（ゆき）」だと分󠄃かっている例（れい）。﹦第𝟏（だいいち）基準（きじゅん）のⒶ
　先行物（せんこうぶつ）が「雪（ゆき）」だから寒さを表すという意味（いみ）で引用（いんよう）はその雪（ゆき）を表す為（ため）にやった。﹦第𝟐（だいに）基準（きじゅん）のⒹ
　　　　　　　　　　　　↓
　　　　　　　　　　　　𝐀𝐃
　長唄（ながうた）玄冬（げんとう）素雪（そせつ）は短い。地歌（じうた）の旋律（せんりつ）の最初（さいしょ）の所だけ。﹦部分（ぶぶん）が全体（ぜんたい）を表している。
　ラテン語𝐩𝐚𝐫𝐬 𝐩𝐫𝐨 𝐭𝐨𝐭𝐨（パルス・プロ・トート）：全体（ぜんたい）に対する部分（ぶぶん）
　　　　　　　　　　　　　の原則（げんそく）が生きている。

※玄冬（げんとう）素雪（そせつ）：冬（ふゆ）の極（きわ）めて寒（さむ）い事の形容。

グループ𝟐《六段（ろくだん）の調（しらべ）》をめぐる間（かん）テクスト性（せい）
　作品（さくひん）がはっきり判（わか）る例（れい）。﹦第𝟏（だいいち）基準（きじゅん）のⒶ
　「六段（ろくだん）の調（しらべ）」はいろいろな曲（きょく）の中に引用（いんよう）されている。
　♪−𝐛𝟏地歌（じうた）《六段（ろくだん）の調（しらべ）》初段（しょだん）
　　三味線（しゃみせん）：菊原（きくはら）光治（こうじ）
　♪−𝐛𝟐義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）《嫗山姥（こもちやまんば）》立まわりの場
　　三味線（しゃみせん）：鶴澤清治（つるさわせいじ）
　　立まわりの𝐁𝐆𝐌（ﾋﾞｰｼﾞｰｴﾑ）として使用（しよう）。
　　これはわかりやすい例（れい）だが、邦楽（ほうがく）の場合（ばあい）、何の旋律（せんりつ）か、どの曲（きょく）から来（き）た旋律型（せんりつけい）かわからない例（れい）が多（おお）い。上例（じょうれい）でも義太夫（ぎだゆう）では、判（わか）るが全（まった）く同じ事を弾（ひ）いているわけではなくて、六段（ろくだん）だと非常（ひじょう）にわかりやすい旋律（せんりつ）の間（あいだ）に義太夫（ぎだゆう）独自（どくじ）の旋律（せんりつ）が入（はい）り込（こ）んでいるのが特徴（とくちょう）。

グループ𝟑旋律型（せんりつけい）の引用（いんよう）
　♪−𝐜𝟏 義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）の「オクリ」
　　義太夫（ぎだゆう）：竹本（たけもと）千歳太夫（ちとせだゆう）
　　三味線（しゃみせん）：鶴澤清治（つるさわせいじ）
　　義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）では独立（どくりつ）した旋律型（せんりつけい）が非常（ひじょう）によく使（つか）われる。例（たと）えば、ある場面（ばめん）がこれから始（はじ）まる事を示す為（ため）にオクリという旋律（せんりつ）が使（つか）われる。

　♪−𝐜𝟐 長唄（ながうた）《三国（さんごく）妖狐（ようこ）物語（ものがたり）﹙中（ちゅう）﹚》
　　唄：稀音家（きねや）義丸（よしまる）
　　三味線（しゃみせん）：稀音家（きねや）助三朗（すけさぶろう）
　　義太夫（ぎだゆう）のどの曲（きょく）から採（と）ったとは言（い）えない。﹦第𝟏（だいいち）基準（きじゅん）のⒷ

　なぜ義太夫（ぎだゆう）を使（つか）ったのか？
　　小塩（おしお）曰（いわ）く、《三国（さんごく）妖狐（ようこ）物語（ものがたり）》は長唄（ながうた）にしては珍（めずら）しく、歌舞伎（かぶき）で上演（じょうえん）された曲（きょく）ではなく、音楽（おんがく）だけを聴いて楽しむ事を目的（もくてき）に作られた曲（きょく）。その中で物語（ものがたり）が展開（てんかい）するが、中（ちゅう）の巻（まき）の冒頭（ぼうとう）部分（ぶぶん）、つまりこれまでとは違（ちが）う新しい場面（ばめん）が始（はじ）まるという事を知らせる為（ため）に義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）のオクリを使（つか）ったのではないか。
　　　　　　﹦第𝟐（だいに）基準（きじゅん）のⒺ

グループ𝟒　義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）における間（かん）テクスト性（せい）
　間（かん）テクスト性（せい）がいっぱいある。

　𝐞𝐱−𝟏﹚ 謡曲（ようきょく）﹙能（のう）の謡（うたい）﹚を引用（いんよう）している例（れい）
　　直接（ちょくせつ）の引用（いんよう）というよりは謡（うたい）の発声（はっせい）の仕方（しかた）；謡（うた）い方（かた）を真似（まね）していると考（かんが）えられる。
　　♪−𝐝𝟏《一谷嫩軍記（いちのたにふたばぐんき）》組討（くみうち）の段（だん）から謡曲（ようきょく）「ウタイバカリ」の引用例（いんようれい）。

　𝐞𝐱−𝟐﹚ 長唄（ながうた）を引用（いんよう）している例（れい）。
　　これも真似（まね）をしている。
　　♪−𝐝𝟐 大薩摩（おおざつま）節（ぶし）旋律型（せんりつけい）の引用（いんよう）

　𝐞𝐱−𝟑﹚ 繁太夫（しげたゆう）節（ぶし）を引用（いんよう）している例（れい）
　　上方（かみがた）の浄瑠璃（じょうるり）の一（ひと）つ。非常（ひじょう）に哀愁（あいしゅう）があり、心中物（しんじゅうもの）を得意（とくい）とするジャンル。
　　♪−𝐝𝟑 《心中（しんじゅう）天網島（てんのあみじま）》河庄（かわしょう）の段（だん）
　　　三味線（しゃみせん）に決まった手がある。♪テン・チ・チンの動（うご）きが繁太夫（しげたゆう）の特徴（とくちょう）と云われる。
　参考（さんこう）﹚地歌（じうた）の中の繁太夫（しげたゆう）ものの例（れい）
　　♪−𝐝𝟒 《帯屋（おびや）》
　　　♪テーン・チ・チン・チンの旋律（せんりつ）が聞こえてくる。

グループ𝟓　長唄（ながうた）における間（かん）テクスト性（せい）
　非常（ひじょう）に多（おお）くのジャンルから引用（いんよう）を行（おこな）っている。長唄（ながうた）の人達（ひとたち）が意識（いしき）をしていた事が判（わか）る例（れい）。
　𝐞𝐱−𝟏﹚河東（かとう）節（ぶし）からの引用例（いんようれい）
　　♪−𝐞𝟏《助六（すけろく）》
　　　河東（かとう）節（ぶし）からたくさん引用（いんよう）している。河東（かとう）節（ぶし）は江戸（えど）の浄瑠璃（じょうるり）の𝟏ジャンル。《助六（すけろく）》も河東（かとう）節（ぶし）で既（すで）にあった。長唄（ながうた）の作者（さくしゃ）も意識（いしき）して作ったと考（かんが）えられる。

　𝐞𝐱−𝟐﹚ 説教（せっきょう）節（ぶし）からの引用例（いんようれい）
　　♪−𝐞𝟐《綱手車（つなでぐるま）》
　　　唄＆三味線（しゃみせん）＆三味線（しゃみせん）
　　　《夜鶴（よるのつる）綱手車（つなでぐるま）》「つきのみやこ」の部分（ぶぶん）に門説教（かどぜっきょう）と書（か）き込（こ）まれている。門付（かどづ）けをして説教（せっきょう）節（ぶし）を演奏（えんそう）していた人達（ひとたち）の音楽（おんがく）を引用（いんよう）したという事を記している。

※門付（かどづ）け：家々（いえいえ）の門口（かどぐち）で芸能（げいのう）を演じ、金品（きんぴん）をもらう事。またその人。猿回（さるまわ）しなど季節（きせつ）的（てき）なものと、歌祭文󠄁（うたざいもん）など季節（きせつ）に関係（かんけい）無（な）いものがある。『日本語大辞典』

グループ𝟔　三味線（しゃみせん）音楽（おんがく）と民謡（みんよう）との間（かん）テクスト性（せい）
　近世（きんせい）邦楽（ほうがく）の中のジャンル同士（どうし）の引用（いんよう）ではなく、外のジャンル。流行歌（りゅうこうか）や民謡（みんよう）といったものからも長唄（ながうた）や義太夫（ぎだゆう）はいろいろな引用（いんよう）をしている。
　𝐞𝐱−𝟏﹚伊勢（いせ）民謡（みんよう）〈相（あい）の山（やま）〉の引用（いんよう）
　　♪−𝐟𝟏 義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）《信州（しんしゅう）川中島（かわなかじま）合戦（かっせん）》輝虎（てるとら）配膳（はいぜん）の段（だん）
　𝐞𝐱−𝟐﹚ 祝（いわい）の歌（うた）〈越後（えちご）松坂（まつざか）節（ふし）〉の引用（いんよう）
　　♪−𝐟𝟐 長唄（ながうた）《角兵衛（かくべえ）》

徳丸（とくまる）：近世（きんせい）邦楽（ほうがく）を作る作り手；作曲家（さっきょくか）；作詞家（さくしか）；演奏者（えんそうしゃ）は自分達（じぶんたち）が引用（いんよう）している、一般（いっぱん）に間（かん）テクスト性（せい）をやっている事を意識（いしき）していた。

義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）の祖（そ）：初世（しょせい）竹本（たけもと）義太夫（ぎだゆう）﹙竹本（たけもと）筑後掾（ちくごのじょう）﹚の文章（ぶんしょう）
　……幼（いとけな）きより聞（き）きなれたる、よろづ（ず）の音曲（おんきょく）の、よきと思ふ（う）ふしをあつめて増減（ぞうげん）し、心をくばり、家々（いえいえ）の口伝（くでん）をひそかにつたへ（え）て、一流（いちりゅう）となし、我（われ）もかたり他にもを（お）しゆる事になん侍（はべ）る。

郡司正勝（ぐんじまさかつ）校注（こうちゅう）、西山松之助（にしやままつのすけ）他編（ほかへん）『近世（きんせい）芸道（げいどう）論』﹙日本（にほん）思想（しそう）体系（たいけい）𝟔𝟏、岩波（いわなみ）書店（しょてん）。𝟏𝟗𝟕𝟐﹚

小塩（おしお）：自分（じぶん）が全部（ぜんぶ）を作ったというのではなくて、いろいろなものを借りて作ってきたという事が判（わか）る。義太夫（ぎだゆう）節（ぶし）を伝承（でんしょう）している人々（ひとびと）は、「これは〜の手」とパターンに名前（なまえ）を付けている。

野沢吉佐（のざわきちさ）の例（れい）
《ミバエ源氏（げんじ）》伏見（ふしみ）の里の段（だん）
　三味線（しゃみせん）の手は朱字（あかじ）で書（か）き込（こ）み、「ケイ」の旋律型（せんりつけい）をいちいち書（か）かないで単（たん）にケイとだけ書（か）いてある。「相（あい）の山（やま）」などもあり。

※コードネーム的（てき）な発想（はっそう）

徳丸（とくまる）：こうして自分達（じぶんたち）の記憶（きおく）を明（あき）らかにし、人にも伝承（でんしょう）する。
小塩（おしお）：次の世代（せだい）の人にもこれは引用（いんよう）なんだとはっきり示したい証拠（しょうこ）。

長唄（ながうた）の稀音家（きねや）義丸（よしまる）へのインタビュー
徳丸（とくまる）：長唄（ながうた）は本当（ほんとう）に色んなジャンルのものを採（と）り入（い）れている。

義丸（よしまる）：ええ。

徳丸（とくまる）：よく日本（にほん）音楽（おんがく）を知らない人は、日本（にほん）音楽（おんがく）を全部（ぜんぶ）バラバラで横（よこ）の連関（れんかん）が無（な）いと思い込（こ）んでいる事が多（おお）いが、先生（せんせい）が専門（せんもん）にしている長唄（ながうた）を聴（き）くと、実に多様（たよう）な音楽（おんがく）様式（ようしき）と腕（うで）を結んでいるという感（かん）じがするけど、そう考（かんが）えていいのか？

義丸（よしまる）：本当（ほんとう）は一番（いちばん）採（と）り入（い）れているだろう。他のジャンルや曲（きょく）を。

徳丸（とくまる）：もしそういったものを採（と）り入（い）れてなかったら長唄（ながうた）はどうなっていただろうか？
義丸（よしまる）：発展（はってん）はしなかったかも知れない。つまんないままだったかも知れない。かえって純粋（じゅんすい）な長唄（ながうた）はどういう節（ふし）かと云われると困（こま）ってしまう事がある。ここは河東（かとう）節（ぶし）でここは一中（いっちゅう）節（ぶし）だと教えるでしょ、そうすると純粋（じゅんすい）の長唄（ながうた）はどこですか？と言（い）われると一番（いちばん）良（い）い例（れい）が、《二人椀久（ににんわんきゅう）》のサトウミウラという所（ところ）がある。あまりやらない事が多（おお）いが、これが純粋（じゅんすい）の長唄（ながうた）の詞だという事を言（い）われた事がある。

徳丸（とくまる）：そして、実際（じっさい）に長唄（ながうた）を教える時はこのようにこれは一中（いっちゅう）から来（き）た、これは河東（かとう）から来（き）たと教えるのか？

義丸（よしまる）：まぁ人による。だいたいは皆あると思（おも）うけど。専門家（せんもんか）なら。普通（ふつう）の人はわからないと思（おも）うけど。ここは一中（いっちゅう）節（ぶし）から採（と）った節（ふし）だ、河東（かとう）使（つか）っているよ、とか。《助六（すけろく）》の例（たと）えば河東（かとう）落（お）としというのがあるが、それなどは例（たと）えば河東（かとう）落（お）としをちゃんとやらないと、怒られた。昔（むかし）から。そういうのはちゃんと、これは河東（かとう）節（ぶし）の落（お）としだから、きっちりやるように、とは言（い）う。

徳丸（とくまる）：そうするとそういうものを習（なら）っていた？

義丸（よしまる）：そう。

徳丸（とくまる）：一中（いっちゅう）も？

義丸（よしまる）：一中（いっちゅう）はちょっと齧（かじ）りました。

徳丸（とくまる）：あとどういうものを習（なら）ったのか？

義丸（よしまる）：おけさ節（ぶし）、一応（いちおう）名前（なまえ）もらったけど。

※聞（き）きとりにくく、オゲイ節（ふし）と聞こえたが、多分おけさ節（ぶし）。佐渡おけさ；越後（えちご）おけさなどの日本（にほん）民謡（みんよう）の事。

徳丸（とくまる）：そうですか。そうやって他の人もきっと色んなものを勉強（べんきょう）していたのか？

義丸（よしまる）：昔（むかし）の人の方がよくしたんじゃないか？かえってやらない方が良（い）いと言（い）う人もいる。変に偏（かたよ）るからと。

徳丸（とくまる）：なるほど。で、先生（せんせい）の師匠（ししょう）のコサン？師匠（ししょう）という人はいろいろ習（なら）った人なのか？

※名前（なまえ）聞（き）き取（と）れず

義丸（よしまる）：よく研究（けんきゅう）していた。とにかく。

徳丸（とくまる）：耳で聴いて？

義丸（よしまる）：ええ。耳で聴いて。一番（いちばん）影響（えいきょう）受けたのは謡（うた）いだと思（おも）う。謡曲（ようきょく）の。この影響（えいきょう）が一番（いちばん）多（おお）い。細谷（ほそや）先生（せんせい）は。みんなそれぞれある。特色（とくしょく）というか。

徳丸（とくまる）：それがまた面白（おもしろ）みを出（だ）すという事になりますね。

義丸（よしまる）：そうですね。まぁ例（たと）えば今の《助六（すけろく）》やっても、弾き手によって全部（ぜんぶ）違（ちが）う。そこが面白（おもしろ）いんじゃないか、長唄（ながうた）は。

徳丸（とくまる）：なるほど。

義丸（よしまる）：それから、演奏（えんそう）していても、𝟓回やれば𝟓回とも違（ちが）う事がある。その通り行かない事もあるし。そういう所（ところ）がまた面白（おもしろ）いんじゃないかと思（おも）う。

徳丸（とくまる）：そうすると他のものを引用（いんよう）するという事は長唄（ながうた）にとって決してマイナスじゃなくて、むしろ多様性（たようせい）をちゃんと確保（かくほ）する為（ため）の𝟏（ひと）つの方法（ほうほう）だと考（かんが）えていいか？

義丸（よしまる）：はい。うまく自分（じぶん）のものに、自家薬籠中（じかやくろうちゅう）にしちゃう、長唄（ながうた）の場合（ばあい）。その点は非常（ひじょう）に偉（えら）いというか、昔（むかし）の人々（ひとびと）はね。うまいというか偉（えら）い。

徳丸（とくまる）：ありがとうございました。

徳丸（とくまる）：音楽（おんがく）の作り手の話（はなし）を聞（き）いた。作り手にとって間（かん）テクスト性（せい）は重要（じゅうよう）。しかし聴（き）き手にとっても同じように重要（じゅうよう）なんじゃないか？

小塩（おしお）：そうだろう。旋律（せんりつ）を聴いて、この旋律（せんりつ）が他のジャンルの何かから引用（いんよう）されているんだという事が判（わか）ると、元の引用（いんよう）したジャンルとの関係（かんけい）までが入（はい）って来て音楽（おんがく）の世界（せかい）というのが一気にひろがるという気がする。

徳丸（とくまる）：なるほど。

※以上（いじょう）、会話（かいわ）体の部分（ぶぶん）は主に常体で記した。

------以上（いじょう）、講義（こうぎ）メモおわり------

　「※」の部分（ぶぶん）は私（わたし）の当時（とうじ）の観ながら思った感想（かんそう）や注釈。最後（さいご）だけ今回（こんかい）付けた注釈。情報（じょうほう）処理（しょり）としては間（かん）テクスト性（せい）だけでなく、間（かん）テクスト性（せい）の説明（せつめい）でちゃんと定義（ていぎ）と要件（ようけん）、そして場合（ばあい）分けをしている点も注目（ちゅうもく）。論理（ろんり）的（てき）な思考（しこう）を身に着（つ）けていたら自然（しぜん）とできて当然（とうぜん）なのだが、大卒（だいそつ）でも、研究（けんきゅう）者でさえもこういう分析（ぶんせき）が身についていない人は少なからずいる。この徳丸（とくまる）吉彦（よしひこ）さんという方は和楽（わがく）をテーマにしながらもそれに限定（げんてい）せず世界（せかい）のさまざまな音楽（おんがく）へと視野（しや）をひろげて多様（たよう）で広い視野（しや）を持（も）っており、分析（ぶんせき）も好みや感情（かんじょう）を伴った偏（かたよ）りがなく論理（ろんり）的（てき）で解りやすいという印象（いんしょう）だった。

　引用（いんよう）自体（じたい）は現代（げんだい）でも行（おこな）われていて、電子（でんし）音楽（おんがく）にさえ見られるが、著作権（ちょさくけん）の問題（もんだい）が足枷（あしかせ）になっているよう。ジャンルとして引用（いんよう）が当たり前（まえ）の場合（ばあい）は権利（けんり）を主張（しゅちょう）される事も基本（きほん）的（てき）に無（な）いが、そうでないジャンルだと手続（つづ）きが必要（ひつよう）になる。要するに「お金払（はら）え」という、文化（ぶんか）芸術（げいじゅつ）ではなく経済（けいざい）の話。ギター奏者（そうしゃ）のリッチー・ブラックモアも、他人（たにん）の曲（きょく）を引用（いんよう）するのは好きだが現代（げんだい）の曲（きょく）はお金がかかるので結果（けっか）的（てき）に古（ふる）い曲（きょく）ばかりになるといった話を以前（いぜん）していた記憶（きおく）がある。

表記ⅩⅢ

　昨日（きのう）、埼玉（さいたま）と東京（とうきょう）を合わせて「埼京（さいきょう）」と表現（ひょうげん）し、[ｻｲｷｮｳ]と振（ふ）り仮名（がな）を付けた。これは埼京線（さいきょうせん）という電車（でんしゃ）の路線名（ろせんめい）がある事から援用（えんよう）したものだが、考（かんが）えてみたらこの呼び名、おかしいかも知れないとふと思った。

　東京都（とうきょうと）と千葉県（ちばけん）を結ぶ電車（でんしゃ）には京葉線（けいようせん）がある。[ケイヨウセン]。神奈川県（かながわけん）と東京都（とうきょうと）と埼玉県（さいたまけん）を結ぶ路線（ろせん）には京浜（けいひん）東北（とうほく）線がある。[ケイヒントウホクセン]。神奈川県（かながわけん）と東京都（とうきょうと）を結ぶ鉄道（てつどう）には他に京浜（けいひん）急行（きゅうこう）電鉄（でんてつ）があるし、京浜（けいひん）工業（こうぎょう）地帯（ちたい）と呼ばれる一帯（いったい）もある。京は[ケイ]と読ませている。しかし埼京線（さいきょうせん）に関しては[さいキョウセン]。他と合わせるのならこちらも[ケイ]じゃないのか？と。さらに、[さい]は[さき]の転訛（てんか）で、音読（おんよ）みは[キ]。だから[キケイセン]の方が素直（すなお）じゃないのか？と。

　𝟐（ふた）つの地域（ちいき）を結ぶ時は旧国名（きゅうこくめい）を使（つか）う事も多（おお）い。総武（そうぶ）は東海道（とうかいどう）上総（かずさ）；下総国（しもうさのくに）の事だし、相武（そうぶ）なら東海道（とうかいどう）相模国（さがみのくに）と武蔵国（むさしのくに）といった具合（ぐあい）に。しかし関東（かんとう）の場合（ばあい）、武蔵国（むさしのくに）が神奈川県（かながわけん）；東京都（とうきょうと）；埼玉県（さいたまけん）に跨（またが）っていた為（ため）、現在（げんざい）では使（つか）い難い。省略（しょうりゃく）地名（ちめい）としては便利（べんり）だが、意外（いがい）と現在（げんざい）の都道府県（とどうふけん）制で略記（りゃっき）が少ないとも思（おも）う。群馬（ぐんま）；栃木（とちぎ）；茨城（いばらき）は関東（かんとう）地方（ちほう）北部（ほくぶ）になるので北関東（かんとう）とは略（りゃく）せる。しかし、群馬（ぐんま）；栃木（とちぎ）とか栃木（とちぎ）；茨城（いばらき）だと現地（げんち）の人達（ひとたち）はどう略（りゃく）しているのだろう？聞いた記憶（きおく）が無（な）い。しかも栃木（とちぎ）は栃の字を採用（さいよう）すると国字（こくじ）なので音読（おんよ）みが無（な）い。

　神奈川県（かながわけん）も不思議（ふしぎ）で、東京都（とうきょうと）と横浜（よこはま）は京浜（けいひん）でまとめるのに、東京（とうきょう）と神奈川（かながわ）をまとめた言葉（ことば）を耳にしない。京神と呼んでもおかしくはないのに、𝐉𝐑（ｼﾞｪｲｱｰﾙ）横須賀（よこすか）線とか小田急（おだきゅう）小田原（おだわら）線とか。京急（けいきゅう）本線（ほんせん）も横浜（よこはま）を通（とお）ってさらに南まで行く。

　手書（てが）きであれワープロであれ、メモをする際に略記（りゃっき）が在れば便利（べんり）だなとは思（おも）うが、今まで私的（してき）にも規則（きそく）を設定（せってい）した事が無（な）かったと気付（きづ）いたので、ちょっと考（かんが）えてみた。もう単純（たんじゅん）に頭文字（かしらもじ）を採る。茨城（いばらき）；群馬（ぐんま）；栃木（とちぎ）；埼玉（さいたま）；神奈川（かながわ）だから茨群栃埼神。千葉（ちば）と東京（とうきょう）は既（すで）にある京葉（けいよう）を採用（さいよう）。

　読み方はどうするか？だが、音読（おんよ）みの方がリズムは良（い）い。栃が問題（もんだい）になるが、意符が木で音符が厉なので、厉を伴った他の部首を考（かんが）えてみると、励蛎砺は全て[レイ]と読む。なので栃にも音を当（あ）てるとしたら[レイ]が相当（そうとう）と考（かんが）えられる。

　京神に関しては素直（すなお）に読めば[ケイシン]だが、京都（きょうと）と神戸（こうべ）のような印象（いんしょう）も持（も）ってしまうので、京は[キョウ]、神は[ジン]にしようかなと思っている。意図（いと）的（てき）に変（か）えたのかたまたま違（ちが）っただけなのか知らないが、神戸（こうべ）大学（だいがく）は[シンダイ]と略（りゃく）し、神奈川（かながわ）大学（だいがく）は[ジンダイ]と略（りゃく）す。表記（ひょうき）はどちらも神大。京都（きょうと）大学（だいがく）は京大だが東京（とうきょう）大学（だいがく）は東大なのでぶつからない。江戸（えど）時代（じだい）は江戸（えど）の事を東都（とうと）とも言っていたので東と略（りゃく）すのも悪くないとは思（おも）うが、地名（ちめい）同士（どうし）をならべた場合（ばあい）、東部（とうぶ）の事を言っているのか東京（とうきょう）の事を言っているのかわかりにくい。東大は英語（えいご）表記（ひょうき）だと𝐓𝐨𝐤𝐲𝐨（トーキョー） 𝐔𝐧𝐢𝐯𝐞𝐫𝐬𝐢𝐭𝐲（ユニヴァースィティ）ではなく𝐔𝐧𝐢𝐯𝐞𝐫𝐬𝐢𝐭𝐲（ユニヴァースィティ） 𝐨𝐟 （オヴ）𝐓𝐨𝐤𝐲𝐨（トーキョー）になっていたりするが、これも他との混同（こんどう）を避ける為（ため）なのだろうか？京大は𝐊𝐲𝐨𝐭𝐨（キョート） 𝐔𝐧𝐢𝐯𝐞𝐫𝐬𝐢𝐭𝐲（ユニヴァースィティ）。𝐔𝐧𝐢𝐯𝐞𝐫𝐬𝐢𝐭𝐲（ユニヴァースィティ） 𝐨𝐟 （オヴ）という言（い）い方をする大学（だいがく）は少ないと思（おも）う。

　そのような訳で、複数（ふくすう）の都県（とけん）を羅列（られつ）する場合（ばあい）、茨群栃埼葉京神から適宜（てきぎ）選んで列挙（れっきょ）するので、もし出て来（き）た場合（ばあい）は略称（りゃくしょう）だと考（かんが）えて欲（ほ）しい。他の地域（ちいき）も必要（ひつよう）があれば行うと思（おも）う。もし既（すで）に略称（りゃくしょう）が使（つか）われている領域（りょういき）があり、その略称（りゃくしょう）に汎用（はんよう）性が認められる場合（ばあい）は、そちらを改めて採用（さいよう）するかも知れないが、その時はまた触れる。

　日常（にちじょう）生活（せいかつ）や学校（がっこう）の教科（きょうか）で都道府県（とどうふけん）名を何度（なんど）も書く機会（きかい）はあまり無（な）いかも知れないが、必要（ひつよう）に応じて自分（じぶん）で略記（りゃっき）を採用（さいよう）する事は効率（こうりつ）化（か）に繫（つな）がるのでお勧（すす）めする。中学受験（じゅけん）の社会（しゃかい）では役に立つかも知れない。中高（ちゅうこう）では国名（こくめい）の略記（りゃっき）を整備（せいび）しておくとノートを取（と）る際に役に立つ。日常（にちじょう）的（てき）にもアメリカを米国（べいこく）、フランスを仏国としたりするが、そういったものは当然（とうぜん）として、さらにロシアの露やトルコの土など、昔（むかし）は使（つか）われていたものもそう。それでも足りない場合（ばあい）は現在（げんざい）の中国語（ちゅうごくご）の頭文字（かしらもじ）を流用しておくと、社会（しゃかい）の勉強（べんきょう）しているだけで中国語（ちゅうごくご）を部分（ぶぶん）的（てき）にでも勝手（かって）におぼえられるという効果（こうか）があるし、日本語（にほんご）と中国語（ちゅうごくご）で音が違（ちが）い過ぎる場合（ばあい）は、自分（じぶん）で独自（どくじ）に設定（せってい）してもいい。どうせ新しく設定（せってい）するのなら原語（げんご）が持（も）つ本来（ほんらい）の意味（いみ）を採用（さいよう）するという手もある。例（たと）えば𝐂𝐨𝐬𝐭𝐚 𝐑𝐢𝐜𝐚（コスタリカ）は中国語（ちゅうごくご）だと音訳（おんやく）して「哥斯達利加」になるが、意味（いみ）としては英語（えいご）での𝐑𝐢𝐜𝐡 𝐂𝐨𝐚𝐬𝐭（リッチ・コースト）なので直訳（ちょくやく）したら豊岸になる。なので豊岸国とか豊国としておいてもいい。国別のコードをおぼえられるならもちろん𝐂𝐑𝐂（ｽｨｰｱｰﾙｽｨｰ）でもいいし、その方が速い。ただ、短いラテン文字（もじ）の略号（りゃくごう）はさまざまな領域（りょういき）で独自（どくじ）の略号（りゃくごう）として使（つか）われるので重複（じゅうふく）や混乱（こんらん）も生まれやすい欠点（けってん）がある。宇宙船（うちゅうせん）研（けん）究（きゅう）者会議（かいぎ）や巡回（じゅんかい）冗長（じょうちょう）検査（けんさ）も𝐂𝐑𝐂（ｽｨｰｱｰﾙｽｨｰ）。漢字（かんじ）でもよく使（つか）う国ぐらいなら𝟏字でほとんど問題（もんだい）無（な）いが、もし世界（せかい）中の国や地域（ちいき）に網羅（もうら）的（てき）に漢字（かんじ）を当（あ）てるなら𝟐字も考（かんが）えておいた方が良（い）い。似たような意味（いみ）や音の国が少なくないのですぐに字が足りなくなる。

　個人（こじん）的（てき）な使（つか）い方だと例（たと）えば欧州（おうしゅう）；中東なら

墺国：オーストリア
英国：イギリス
白国：ベルギー
勃国：ブルガリア
克罗国：クロアチア
捷国：チェコ
丁国：デンマーク
仏国：フランス
芬国：フィンランド
希国：ギリシャ
独国：ドイツ
匈国：ハンガリー
愛国：アイルランド
伊国：イタリア
氷国：アイスランド
立陶国：リトアニア
盧公国：ルクセンブルク
諾国：ノルウェー
蘭国：オランダ
波国：ポーランド
葡国：ポルトガル
列支公国：リヒテンシュタイン
罗国：ルーマニア
瑞国：スイス
西国：スペイン
典国：スウェーデン
阿富国：アフガニスタン
巴林国：バーレーン
塞浦国：キプロス
以国：イスラエル
伊拉国：イラク
斯国：イラン
絡朝国：イスラム国
約旦国：ヨルダン
科国：クウェート
古爾族：クルド人自治（じち）区
黎巴国：レバノン
阿曼国：オマーン
乳蜜国：パレスティナ
巴基国：パキスタン
華太国：カタール
沙国：サウジアラビア
叙国：シリア
土国：トルコ
首長国：アラブ首長国（しゅちょうこく）連邦（れんぽう）
也国：イエメン

といった感（かん）じ。全国（ぜんこく）に当てているわけではないが、ある程度（ていど）名前（なまえ）を目にする機会（きかい）がある処へ当てているうちにここまで増えた。混同（こんどう）が無（な）い場合（ばあい）は𝟏字だけで済ませている事も多（おお）い。ただ、ややこしい時があって最近（さいきん）はトルコは吐、スペインは㢴にするようになってきた。

　独自（どくじ）に設定（せってい）するという話でこの前（まえ）「♪麩（ふ）、麩（ふ）、麩（ふ）、お麩（ふ）は、何で、お麩（ふ）と、言（い）うの？こんなに言（い）い難い食べ物は無（な）い〜②」で宇多田（うただ）さんが自身（じしん）で名前（なまえ）を付ければ良（い）いという話をしたが、あの記事（きじ）で

　最初（さいしょ）のツイート内容（ないよう）に戻ると、彼女（かのじょ）は単（たん）に「誰（だれ）かがメディアでした話から別の誰（だれ）かが一言（ひとこと）だけ抜き取（と）って、文脈（ぶんみゃく）から切り離してネットで持（も）ち出（だ）して」と書（か）いている。つまり、主張（しゅちょう）した人物（じんぶつ）と持（も）ち出（だ）した人物（じんぶつ）に関係（けい）性は無（な）い。これは大（おお）きな違（ちが）いだろう。恐らく彼女（かのじょ）は主張（しゅちょう）した内容（ないよう）を悪意（あくい）を持（も）って切り出（だ）して相手（あいて）を貶（けな）すパターンを想定（そうてい）して言っているのだろうが、単（たん）に切り離して何かしら私見（しけん）を加えるだけなら、それにはパターンがいくつか想定（そうてい）される。動機（どうき）とかモティーフと呼ばれるものも同じ。ベートーヴェンの曲を聴いて「ジャジャジャジャーン」が印象（いんしょう）に残ったのでそれを使（つか）って曲を作りましたでも、絵を描きましたでも、「文脈（ぶんみゃく）から切り離して」「持（も）ち出（だ）して」いるには変（か）わりない。大喜利（おおぎり）でもギャグでも風刺（ふうし）でもパラフレーズでも即興（そっきょう）演奏（えんそう）でも連歌（れんが）でも行われている。それをネット上で行えば同じ話になってしまう。

という事を書（か）いた。それに関連（かんれん）して、「間（かん）テクスト性（せい）𝐢𝐧𝐭𝐞𝐫𝐭𝐞𝐱𝐭𝐮𝐚𝐥𝐢𝐭𝐲（インターテクスチャリティ）」という言葉（ことば）を思い出（だ）した。𝟏𝟎年くらい前（まえ）に放送（ほうそう）大学（だいがく）で紹介（しょうかい）していたお話（はなし）なので当時（とうじ）のメモを引（ひ）っ張（ぱ）り出（だ）してみたが、意外（いがい）と内容（ないよう）が多（おお）かったので細かい事はまた他の機会（きかい）に紹介（しょうかい）する。引用（いんよう）のさまざまなパターンについても出てくる。メモをスキャンしてここに上げようとも思ったが、簡化字（かんかじ）＆私製字（しせいじ）＆乱字で読める人がかなり限られるだろうからやめにした(笑)　ネットで検索（けんさく）しても何か出てくるかも知れない。